東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科
分子糖尿病科学講座


Department of Molecular Sciences on Diabetes
Graduate School of Medicine, The University of Tokyo

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    世界的に食生活の欧米化や、交通機関の発達による運動量の低下により、糖尿病患者が増加しています。糖尿病の病態解明と治療法の開発は喫緊の課題です。糖尿病は、膵β細胞のインスリン分泌が相対的に低下し、また、インスリン作用の不足により血糖値が上昇する病気です。当研究室では、インスリンシグナル伝達に関する研究(PI-3キナーゼなどの役割)、肝臓、脂肪のインスリン抵抗性に及ぼす病態解明や治療につながる研究を目指しています。

    The Top Stories

    XBP-1が持つもう1つの「甘い」顔

    Nature Medicine 17, 246-248 (2011)
    Nature Medicine 16, 429-437 (2010)
    Nature Medicine 16, 438-445 (2010)


    2光子励起顕微鏡による膵島のインスリン分泌の観察

    肝のAktとFoxo1を欠損させても、in vivoでインスリンは肝糖新生を調節できる

    Nat Med, 18, 388-95.(2012) 画像をクリックして解説サイトへ

    膵β細胞のPI3キナーゼ

    Cell Metabolism, 12, 619-632 (2010) 画像をクリックして解説サイトへ

    アディポネクチンのマクロファージを介した作用機序の解明

    Cell Metabolism, 13, 401-412 (2011) 画像をクリックして解説サイトへ


    加齢とインスリン抵抗性〜サルコペニアを中心に〜


    加齢と共にインスリン抵抗性が誘導されると考えられていますが、その機序としては様々な因子が挙げられており、中でも加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)の寄与に、近年注目が集まっています。加齢に伴う代謝変化について、骨格筋にも着目しながら概説いたします。

    加齢に伴う体組成の変化

    除脂肪量、特に骨格筋量は、年齢と共に減少することが知られています。日本人においても、骨格筋量は概ね20代以降で一貫して減少し、特に高齢になるほど減少率は上昇します。部位別では下肢の筋肉量の減少幅が大きく、男女共に80歳時の同部位の筋肉量は、20歳時の7割未満にまで減少します [1]。骨格筋は速筋線維と遅筋線維から成ります。前者はミトコンドリア含量が少ない一方で瞬発力に優れ、後者はミトコンドリアに富むため赤色調に見え、持久力に優れています。興味深いことに加齢に伴い、前者が直線的に減少するのに対して、後者はほぼ変化を示さないことが報告されています [2]。
    このような骨格筋量の減少は、基礎代謝の低下につながり、その割合は10年ごとに2-3%ずつと言われています [3]。また同時に、身体活動の低下にも寄与している可能性があり、実際に日本人の1日の平均歩数は、男女共に70代において、20-40代の6割程度に減少してます [4]。これと矛盾しない変化として、1日あたりの消費エネルギーも加齢と共に減少し、その割合は10年ごとに、男性で165.6kcal、女性で102.7kcalずつと言われています。これには身体活動の低下と基礎代謝の低下の、双方の寄与が大きいと考えられています [5]。一方で日本人における1日の平均摂取エネルギーは、70代で若干減少するものの、ほぼ変わりません [6]。
    このようなエネルギーの摂取と消費のバランスが崩れるためと考えられていますが、加齢に伴い脂肪量、中でも内臓脂肪量は増加します。メタボリックシンドロームは内臓脂肪量の増加を背景に発症すると考えられていますが、日本人の場合、それが強く疑われるものの割合は70歳以上で最も高く、男性で約4人に1人、女性では約3人に1人にのぼると報告されています [4]。

    サルコペニアの病態とインスリン抵抗性

    このように加齢に伴って骨格筋量が減少し、かつその機能、すなわち筋力または身体能力が低下した状態を、サルコペニアsarcopeniaと呼びます。これは、筋肉を意味するsarcoと、減少・欠乏を意味するpeniaから成る単語で、量の減少のみを前段階としてプレサルコペニアと呼び、逆に筋力と身体能力の双方が低下した状態は重症サルコペニアとして扱います。サルコペニアの有病率は、報告によってばらつきが大きいが、60-70歳で5-13%、80歳以上で11-50%と言われ、また病態形成には様々な因子が関わっていると考えられています [7]。
    この中にインスリン抵抗性も含まれるが、この状態ではインスリンとほぼ共通の分子を介してシグナルが伝達されるインスリン様成長因子(insulin-like growth factor, IGF)-1のシグナルも、同様に低下していると考えられています。両者、特にIGF-1は、骨格筋における蛋白合成や細胞増殖において重要な役割を果たしており、実際骨格筋特異的なインスリン受容体、並びにIGF-1受容体欠損マウスは、いずれも骨格筋量の減少を呈していました [8,9]。加えて、血中のIGF-1の大部分は、視床下部由来の成長ホルモンの制御を受けて肝臓で合成・分泌されるが、ヒトにおける血中濃度は思春期以降大きく減少し、その割合は10年で14%ずつとも言われています [10]。すなわち量的な減少と、受容体より下流のシグナル低下とが相まって、IGF-1の作用が減弱し、サルコペニアの一因となっている可能性が考えられます。

    加齢に伴うインスリン抵抗性

    上記のようなインスリン抵抗性を健常者において、ゴールドスタンダードであるインスリンクランプを用いて解析した研究がなされています。それによれば、確かに加齢にしたがって全身のインスリン感受性が緩やかに低下したものの、体格指数などで補正すると統計学的に有意ではありませんでした [11]。これは加齢そのものがインスリン抵抗性の原因となるよりは、加齢が内臓脂肪肥満を介して、間接的にインスリン抵抗性をもたらしている可能性が示唆される結果でした。但し肥満でない女性に限れば、体格指数で補正しても、加齢はインスリン抵抗性を相関していました。このように内臓脂肪量が代謝に及ぼす影響が、比較的大きくないような条件下においては、加齢はインスリン抵抗性の原因となりうるのかもしれません。
    このような全身のインスリン抵抗性を左右するのは、主に肝臓からの糖新生と、骨格筋における糖取り込みです[12]。前者について、同じグループによる解析がなされていますが、機序ははっきりしないながら糖新生は除脂肪量と強く相関し、年齢とは逆相関が認められました [13]。インスリン作用が低下すると、肝臓からの糖新生が増加し、耐糖能の増悪につながるものと一般には考えられていますが、これとは寧ろ逆の結果でした。すなわち加齢に伴うインスリン抵抗性の責任臓器として、少なくとも肝臓は考えづらいということになります。
    一方で後者に関連して、これを担うブドウ糖輸送担体GLUT4の発現が、加齢に伴って低下することが報告されています [14]。また骨格筋の糖取り込み自体も加齢により低下するとの報告もなされているが、それが骨格筋量の減少に因るものなのか、それとも骨格筋におけるインスリンシグナルの低下に因るものなのか、或いは他の交絡因子で補正しても関連が引き続き見られるか否かについては、明らかとなっていません [15]。もし本当に加齢によって骨格筋のインスリン抵抗性が惹起されるのであれば、インスリン/IGF-1シグナルの低下が筋量の減少に拍車をかけ、それが骨格筋でのインスリン作用を更に低下させる、という悪循環が形成される可能性も想定されています。

    加齢に伴い、内臓脂肪は増加し、骨格筋は減少します。後者が筋力や身体機能の低下を伴った状態をサルコペニアと呼び、インスリン抵抗性もその病態形成に寄与しているものと考えられています。サルコペニアとインスリン抵抗性は、お互いがお互いの増悪因子となり、悪循環を形成する可能性があるが、加齢が単独でインスリン抵抗性の原因となるかについては意見の一致を見ておらず、現在研究を行っているところです。


    参考文献
    [1] 日老医誌47: 52-57, 2010.
    [2] J Neurol Sci 84: 275, 1988.
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    [4] 厚生労働省:平成25年国民健康・栄養調査 結果の概要.
    http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000067890.html
    [5] Eur J Clin Nutr 54: S92-103, 2000.
    [6] 厚生労働省:平成24年国民健康・栄養調査報告.
    http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h24-houkoku.html
    [7] 厚生労働科学研究補助金(長寿科学総合研究事業)高齢者における加齢性筋肉減弱現象(サルコペニア)に関する予防対策確立のための包括的研究研究班: サルコペニア:定義と診断に関する欧州関連学会のコンセンサス―高齢者のサルコペニアに関する欧州ワーキンググループの報告―の監訳.
    http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/sarcopenia_EWGSOP_jpn-j-geriat2012.pdf
    [8] Age (Dordr) 32: 209-22, 2010.
    [9] J Clin Invest 120: 4007?4020, 2010.
    [10] J Clin Endocrinol Metab 95: 3664-3674, 2010.
    [11] Diabetes 45, 947-53, 1996.
    [12]Lu M, Wan M, Leavens KF, Chu Q, Monks BR, Fernandez S, Ahima RS, Ueki K, Kahn CR, Birnbaum MJ. Insulin regulates liver metabolism in vivo in the absence of hepatic Akt and Foxo1. Nat Med. 2012;18:388-95.
    [13] Diabetologia 43, 1266-72, 2000.
    [14] Diabetes 44, 555-560, 1995.
    [15] Age Ageing 20, 221-5, 1991.

    肝臓のインスリン抵抗性と小胞体ストレス・酸化ストレス


    肥満・糖尿病の病態を考える上で、小胞体ストレスと酸化ストレスの役割に注目が集まっています。病態モデルマウスでは様々な組織においてこれらのストレスが亢進している一方、それに対する応答低下が糖脂質代謝異常の原因となることが明らかとなっています。


    小胞体の機能と小胞体ストレス

    分泌蛋白や膜蛋白は、小胞体の中で折りたたみやS-S結合形成、糖鎖付加などの修飾を受け、初めて機能を有する成熟したタンパクとなります[1,2]。しかし蛋白合成の増加やシャペロン機能の低下によってこれらの過程が障害されると、未成熟なunfolded proteinが小胞体内に過剰に蓄積し、小胞体や、ひいては細胞全体に負荷がかかる。この状態を小胞体ストレスと呼びます。
    これに対して生体は、正常なタンパク合成を行なえるように、転写、翻訳、蛋白の折り畳みなどを調節する反応UPR(unfolded protein response)を示すことが知られています。このUPRの最上流として、IRE-1α(inositol-requiring enzyme 1α), ATF6(activating transcription factor 6), PERK(PKR-like endoplasmic reticulum kinase)の3分子が、小胞体ストレスセンサーとして知られています。
    通常はBiPがunfolded proteinだけでなく、これら3種の小胞体ストレスセンサーにも結合し、賦活化を防いでいます。しかし小胞体ストレスがかかると、BiPはunfolded proteinとの結合に消費され、小胞体ストレスセンサーはBiPから遊離して活性化し、種々の分子を介してシグナルが伝達されていきます [3-4]。
    このような小胞体ストレス関連シグナルのカスケードは、様々な組織で共通して見られるとされています。一般に小胞体ストレスに対する反応は、XBP1, BiP, eIF2αに代表されるように細胞保護的ですが、小胞体ストレスが過剰な場合や遷延した場合には、JNK, CHOPなどによる細胞障害的な面がより強く現れると考えられています。
    特に後者の側面において、小胞体ストレスと酸化ストレスは密接に関連しています。前者は小胞体、後者はミトコンドリアと、関係の深い細胞内小器官は異なるものの、一方が亢進した状態では他方も亢進し、逆に一方が改善したような状況では、他方も軽減することが多いと考えられています。

    肝臓における小胞体ストレス

    小胞体ストレスと糖脂質代謝の関連は様々な組織で知られているが、中でも肝臓では多くの知見が得られ、インスリンシグナル障害や糖新生の障害、並びに脂肪酸合成生との関連が次々と明らかにされています

    インスリン抵抗性状態での小胞体ストレス

    インスリン抵抗性下の肝臓では、小胞体ストレスが亢進していることが、近年明らかとなっています [5-7]。その詳細な機序は十分には明らかとなっていないが、過剰な栄養素の流入が一因であろうと考えられています。例えばタンパク摂取自体がタンパク合成を促すことが知られており [8]、過剰なアミノ酸の流入によって肝臓でのタンパク合成が亢進し、小胞体ストレスの原因となる可能性があります。また脂肪酸の持続投与が、機序は不明ながらも小胞体ストレスを惹起するとの報告もあり [9]、肥満・糖尿病で脂肪組織から血中へと分泌されている多量の遊離脂肪酸が、小胞体ストレスの誘導に関与している可能性も想定されています。

    小胞体ストレスとインスリン抵抗性

    一方で、XBP1は先述の通り、小胞体ストレスに対する反応をにおいて鍵を握る分子であるが、このXBP1のヘテロ欠損マウスでは、高脂肪食負荷下でインスリン抵抗性が惹起された [5]。このことから、小胞体機能が低下して小胞体ストレスが過剰となると、インスリン抵抗性が惹起されると考えられています。
    この機序としては、小胞体ストレスによってIRE-1αの下流であるJNKの活性が亢進し、それがインスリンのシグナル伝達において重要な役割を果たすIRS(insulin receptor substrate)-1のセリン残基(特に307番目のセリン残基)のリン酸化を促すため、と考えられています。IRS-1はチロシン残基のリン酸化を受けることによって活性化するが、セリン残基がリン酸化されるとIRS-1自体の立体構造が変化し、チロシン残基がリン酸化を受けにくくなります。これがインスリン感受性低下の一因と考えられています [10-12]。 逆にシャペロン分子の発現補充や、ケミカルシャペロンと呼ばれる小分子の投与によって、小胞体機能を改善させると、肝臓でのインスリン抵抗性、並びに全身の耐糖能が改善することも示唆されています [6-7, 13]。

    小胞体ストレスとシャペロン誘導・糖新生

    このようにインスリン抵抗性状態の肝臓では、小胞体ストレスが惹起されていると考えられる一方、小胞体ストレスを収束させるシャペロン分子の発現は逆に低下している可能性が、最近になって唱えられています。
    ATF6は、XBP1と共にシャペロン誘導に重要な役割を果たす転写因子であるが、その転写活性を考える上ではCRTC2(CREB regulated transcription coactivator 2)との相互作用が重要であることが明らかとなっています。元々CRTC2は、糖新生酵素の誘導において重要な転写因子CREB(cAMP response element binding protein)の共役因子として同定された分子です。しかしながらインスリン抵抗性によって糖新生系が亢進することで、CRTC2がCREBとより多く結合し、逆にATF6とCRTC2の結合が低下することで、その転写活性も低下するのだといわれています [14]。
    またXBP1の核移行が、p85という分子を介し、インスリンによって制御されることも示唆されている。p85はPI3K(phosphoinositide 3-kinase)の調節サブユニットであり、インスリンシグナルによる調節を受けることはよく知られています。この分子がXBP1と結合して核移行を促すことで、シャペロン誘導を促進する一方、インスリン抵抗性下ではp85を介したXBP1の核移行が低下し、シャペロン誘導も低下していることが示されています [15]。
    このようにインスリン抵抗性状態においては、過剰な栄養素の流入によって小胞体ストレスが惹起される一方、それを収束させるはずのシャペロンの誘導が複数の機序によって低下し、更なる小胞体ストレスの亢進につながるという悪循環の存在が認められつつあります。
    これに加えてXBP1は、小胞体ストレスとは独立に、糖新生の調節を行なうことがごく最近報告されました。これによればXBP1は、転写因子FoxO1(forkhead box protein O1)のユビキチン化による分解を促進することで、糖新生関連遺伝子の誘導を抑制することも明らかとなっています [16]。

    小胞体ストレスと脂肪酸合成

    小胞体ストレスによって誘導、ないし活性化される分子の一部は、脂肪酸合成を促進することが明らかとなっています。リン酸化を受けて活性化されたeIF2αは、翻訳抑制やATF4の誘導に関与するのに加え、PPARγを介して脂肪酸合成を促進することが示されています [17]。また肝臓でXBP1を欠損させると脂肪酸合成が低下することから、XBP1が脂肪酸合成酵素を誘導するとの報告もあります [18]。すなわち、肥満・糖尿病において誘導された小胞体ストレスは、インスリン抵抗性を惹起するだけでなく、脂肪肝の形成にも関与している可能性が考えられています。

    ヒトの肝臓における小胞体ストレス

    少数ではあるが、トの肝臓における小胞体ストレスマーカーの検討もなされています。具体的には、脂肪性肝炎に至った症例ではBiPの遺伝子発現が上昇したとの報告 [19] や、また肥満症症例で減量手術を行なうと、BiPやsXbp1の遺伝子発現が低下したとの報告があります [20]。

    小胞体ストレスは酸化ストレスと相まって、特に肝臓において、インスリン抵抗性の病態形成と密接に関連しています。両者を軽減する薬剤を開発できれば、新たな治療標的となる可能性が考えられています。その一方でこれらのストレスが糖脂質代謝に及ぼす作用については未解明の点も多く、更なる知見の集積が期待されています。

    参考文献:共著論文はリンクあり
    1. Ron, D. and P. Walter, Signal integration in the endoplasmic reticulum unfolded protein response. Nat Rev Mol Cell Biol, 2007. 8(7): p. 519-29.
    2. Knittler, M.R., S. Dirks, and I.G. Haas, Molecular chaperones involved in protein degradation in the endoplasmic reticulum: quantitative interaction of the heat shock cognate protein BiP with partially folded immunoglobulin light chains that are degraded in the endoplasmic reticulum. Proc Natl Acad Sci U S A, 1995. 92(5): p. 1764-8.
    3. Ji, C. and N. Kaplowitz, ER stress: can the liver cope? J Hepatol, 2006. 45(2): p. 321-33.
    4. Hotamisligil, G.S., Endoplasmic reticulum stress and the inflammatory basis of metabolic disease. Cell, 2010. 140(6): p. 900-17.
    5. Ozcan, U., et al., Endoplasmic reticulum stress links obesity, insulin action, and type 2 diabetes. Science, 2004. 306(5695): p. 457-61.
    6. Nakatani, Y., et al., Involvement of endoplasmic reticulum stress in insulin resistance and diabetes. J Biol Chem, 2005. 280(1): p. 847-51.
    7. Ozawa, K., et al., The endoplasmic reticulum chaperone improves insulin resistance in type 2 diabetes. Diabetes, 2005. 54(3): p. 657-63.
    8. Yoshizawa, F., Translational regulation of protein synthesis in the liver and skeletal muscle of mice in response to refeeding. The Journal of Nutritional Biochemistry, 1995. 6: p. 130-136.
    9. Ota, T., C. Gayet, and H.N. Ginsberg, Inhibition of apolipoprotein B100 secretion by lipid-induced hepatic endoplasmic reticulum stress in rodents. J Clin Invest, 2008. 118(1): p. 316-32.
    10. Hotamisligil, G.S., et al., IRS-1-mediated inhibition of insulin receptor tyrosine kinase activity in TNF-alpha- and obesity-induced insulin resistance. Science, 1996. 271(5249): p. 665-8.
    11. Hirosumi, J., et al., A central role for JNK in obesity and insulin resistance. Nature, 2002. 420(6913): p. 333-6.
    12. Aguirre, V., et al., Phosphorylation of Ser307 in insulin receptor substrate-1 blocks interactions with the insulin receptor and inhibits insulin action. J Biol Chem, 2002. 277(2): p. 1531-7.
    13. Ozcan, U., et al., Chemical chaperones reduce ER stress and restore glucose homeostasis in a mouse model of type 2 diabetes. Science, 2006. 313(5790): p. 1137-40.
    14. Wang, Y., et al., The CREB coactivator CRTC2 links hepatic ER stress and fasting gluconeogenesis. Nature, 2009. 460(7254): p. 534-7.
    15. Park, S.W., et al., The regulatory subunits of PI3K, p85alpha and p85beta, interact with XBP-1 and increase its nuclear translocation. Nat Med, 2010. 16(4): p. 429-37.
    16. Zhou, Y., et al., Regulation of glucose homeostasis through a XBP-1-FoxO1 interaction. Nat Med, 2011. 17(3): p. 356-65.
    17. Oyadomari, S., et al., Dephosphorylation of translation initiation factor 2alpha enhances glucose tolerance and attenuates hepatosteatosis in mice. Cell Metab, 2008. 7(6): p. 520-32.
    18. Lee, A.H., et al., Regulation of hepatic lipogenesis by the transcription factor XBP1. Science, 2008. 320(5882): p. 1492-6.
    19. GASTROENTEROLOGY 2008;134:568?576.
    20. Diabetes 58:693?700, 2009.

    β細胞機能とインスリンシグナルについて

    糖尿病は世界的に増加している疾患の一つです。糖尿病は、インスリン作用が低下し、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンの量も相対的に減少して血糖値が慢性的に高くなる代謝疾患です。生活習慣の変化に伴い、我が国でも糖尿病患者は増加し、2012年国民健康・栄養調査では糖尿病が強く疑われている人が約950万人、糖尿病の可能性を否定できない人を含めると約2,050万人と推定されています。

    膵島の分化

    ヒトの膵島は妊娠12週程度から発生します。妊娠13〜16週頃には導管から内分泌細胞の小集塊が発生します。妊娠17〜20週には膵島が膵管から離れ孤在性となり、妊娠21〜26週ごろには成人のような膵島構成細胞分布となります。β細胞は出生後から2年以内までに新生し、生後から成人までβ細胞量は増加するが、膵島の数の増加よりも、膵島内の細胞増殖、膵島サイズの増大によります。β細胞の増殖能は小児期で高く、成人になるにつれて減少します。β細胞は膵重量に対して約2%を占めるにすぎませんが、糖代謝の恒常性に重要な役割を担っています1)。
    ラットのβ細胞の半減期は30〜60日程度と推定されているが、ヒトのβ細胞は少なくとも20〜30年程度あると考えられています。研究により原腸からPdx1陽性細胞が生じ膵芽が形成されます。Neurogenin(Ngn3)が膵内分泌細胞の転写因子と考えられています。Ngn3陽性細胞は、Arxがα細胞への分化を、Pax4がβ細胞への分化を担っています。β細胞はその後、Nkx2.2, NKx6.1により分化を促され、成熟したβ細胞ではMafAが発現し、機能維持に関与しています。

    β細胞の代償性増加と2型糖尿病

    2型糖尿病はβ細胞量の低下とインスリン分泌能低下が主な原因と考えられています。ヒトの剖検の報告でも肥満型では痩せ型に対しβ細胞量の増大が認められたが、2型糖尿病の場合では、肥満型でも痩せ型でもβ細胞量の低下が認められています。このように、体重増加などによりインスリン抵抗性が生じると、インスリン分泌は代償性に増加します。そのシグナルはすべてが明らかになっているわけではないが、インスリンは重要なシグナルの一つです。β細胞にもインスリン受容体は存在をしており、β細胞特異的にインスリン受容体を欠損させるとβ細胞量が減少します。
    β細胞より分泌されるインスリンは主要な増殖因子としての役割を全身で担っていますが、近年、β細胞自身に対するインスリンシグナルも重要であると報告されています。β細胞においてインスリンはオートクラインやパラクラインに作用していることが証明されてきており、β細胞量の低下やインスリン分泌不全のメカニズムの一端を担っていると考えられています。

    β細胞におけるインスリンシグナルとβ細胞量

    β細胞におけるインスリンシグナルの役割は、遺伝子欠損マウスやトランスジェニックマウスの解析により証明されてきています。β細胞特異的インスリン受容体欠損(βIRKO)マウスでは耐糖能障害を呈します。特に、グルコース応答性インスリン分泌低下があり、加齢に伴う膵島の増大が低下しています2)。β細胞特異的IGF-1受容体欠損マウスではβ細胞量には変化はないが,グルコース応答性インスリン分泌が低下しています。相互の役割を解明するために、β細胞特異的インスリン受容体/IGF-1受容体ダブル欠損マウスを解析したところ、3週齢より高血糖を呈しβ細胞量も低下しました。IGF-1受容体ノックアウトマウスでは血糖値も軽度高値のみで、インスリン値やβ細胞量には変化が認められなかったことより、インスリン受容体は、IGF-1受容体に比べてβ細胞に重要な役割を担っていることが解明されました3, 4)。
    IRS-1とIRS-2はインスリン受容体の基質であり、インスリンシグナルには不可欠です。IRS-1欠損マウスはブドウ糖応答性のインスリン分泌低下を、IRS-2欠損マウスではβ細胞量の低下と増殖障害が認められました5)。IRS-1とIRS-2のダブル欠損マウスは、著明なβ細胞量の低下を示すことより、IRS-1とIRS-2はある程度代償しあっていると考えられています。β細胞特異的PDK-1欠損マウスのβ細胞はアポトーシスの充進と細胞増殖の低下によりβ細胞量が減少し,糖尿病を発症することも報告されています。
    FoxO1は、PI3キナーゼ/Akt依存性にリン酸化される重要な転写因子です。FoxO1のハプロ不全は、IRS-2ノックアウトマウスにおいてβ細胞の増殖を部分的に回復させ、β細胞の分化やPdx-1の発現を増加させました。また、FoxO1がβ細胞の代償性肥大を抑制していると報告されています。FoxO1がβ細胞において重要な機能を担っていることが示されました6)。以上の結果から,β細胞のインスリンシグナルはインスリン受容体,IRS,PDK-1,aktなどを介して細胞増殖や抗アポトーシス作用を発揮し,β細胞量維持や増大に重要な役割を果たしていることが示されました。

    β細胞におけるインスリンシグナルとインスリン分泌調節機構

    β細胞におけるインスリンシグナルの下流には,糖代謝や抗アポトーシス作用などを制御するPI3キナーゼ/Aktシグナル経路と,細胞増殖を制御しているRas/Erkシグナル経路が存在します。これらを介してβ細胞におけるインスリンシグナルはインスリン分泌調節機構も調節をします。膵β細胞特異的pik3rl欠損マウスと全身性pik3r2欠損マウスを交配し,β細胞でPI3キナーゼを完全に欠損した膵β細胞特異的PI3Kノックアウトマウスでは、グルコース応答性インスリン分泌の低下を伴う耐糖能異常を呈しており、特に第1相のインスリン分泌が傷害されています。また、β細胞量にはコントロールマウスと差は認められませんでしたが、アポトーシスの増加と、β細胞の増殖亢進が認められた。PI3キナーゼ/Aktシグナル経路と,PI3キナーゼ/Aktシグナル経路のうち,PI3キナーゼ/Aktシグナル経路が遮断されると、代償性にRas/Erkシグナル経路が活性化されて細胞増殖能が亢進し,アポトーシスが亢進しているにもかかわらずβ細胞の量が維持されるものと考えられました7)。

    β細胞における細胞周期

     β細胞の複製は細胞周期を調節する遺伝子が関与していることが示されています。cyclin依存性キナーゼの阻害因子であるp16やp27はβ細胞増殖の抑制因子となっています。また、cyclin D3はβ細胞の複製に関与していると報告されています。
    Meltonらはβ細胞増殖を促すbetatrophinを発見しました。Betatrophinは、インスリン抵抗性に伴い肝臓や脂肪細胞で発現が上昇する分泌蛋白です。Betatrophinをマウスの肝臓で過剰発現させるとβ細胞のcyclin, Cdkの発現が増大し、容積が増大するとともに耐糖能が改善しました8)。

    2型糖尿病とオートファジー不全

    2型糖尿病患者のインスリン分泌が低下した膵島ではオートファジーの基質であるp62が蓄積していることから、オートファジー不全が存在していると推測されています。オートファゴゾームに必要なAtg7をβ細胞で欠損したマウスでは膵島の代償性肥大が抑制されています。2型糖尿病患者のインスリン分泌が低下した膵島ではアミロイド沈着がみられ、膵島アミロイドポリペプチド(islet amyloid polypeptide: IAPP)といわれています。ヒトIAPPはオートファジー不全において細胞毒性がより強くなり、β細胞の増殖や細胞死を惹起すると報告されています9)。

    β細胞からの脱分化

    β細胞特異的FoxO1欠損マウスにおいてβ細胞の分化を追ったところ、pdx1, MafAの発現が消失しNgn3の発現が検出されたことからβ細胞からの脱分化が推測されました。2型糖尿病患者から採取した膵島においてもMafA、nkx6.1、pdx1の発現低下が報告されました。ジフテリア毒素を用いてマウスにおいてβ細胞を選択的に除去すると、α細胞、あるいはδ細胞からの分化転換によるβ細胞がみられました10)。つまり、β細胞は他の細胞に分化することことがあり、2型糖尿病においてもインスリン分泌をしない細胞へ脱分化している可能性が考えられています。

    酸化ストレスや小胞体ストレス

    高血糖状態では、ミトコンドリア内電子伝達系の活性化、非酵素的糖化反応などを介し酸化ストレスが生じます。また、NADPHオキシダーゼの活性化により酸化ストレスが生じます。β細胞では、酸化ストレスに暴露するとインスリン遺伝子やインスリン遺伝子の転写因子の発現が特異的に低下します。抗酸化療法としてN-アセチルシステイン(NAC)を実験動物に投与するとインスリン分泌や耐糖能の改善がみられることが報告されています。酸化ストレスによりc-Jun N-terminal kinase (JNK)経路の活性化が関与していることが明らかとなっています。酸化ストレスによりJNK経路が活性化すると、pdx-1のDNA binding activityが低下しインスリン遺伝子の発現低下、インスリン生合成の低下を生じます。  一方で、小胞体ストレスもβ細胞のインスリン分泌能低下に深く関与している可能性があります。若年発症の糖尿病と神経・精神症状を合併とするウォルフラム症候群の原因遺伝子であるwfs1は小胞体ストレスに重要な遺伝子です。Wfs1は小胞体に存在し小胞体内のカルシウム応答に重要な役割を果たしています。Wfs1が欠損するとβ細胞において小胞体ストレスセンサーであるPERK (RNA activated protein kinase-like ER kinase)やATF6(activating transcription factor 6)、IRE1(inositol requiring 1)などを介して以上タンパク質を分解したり、対処しきれない場合にはアポトーシスを誘導します11)。


     β細胞の機能障害や細胞死は高血糖や脂質異常により引き起こされると考えられています。これらは糖毒性や脂肪毒性といわれており、β細胞株などの実験で確認されてきています。また、慢性炎症が内臓脂肪のみならず2型糖尿病患者の膵島でも生じており、マクロファージなどの浸潤が認められていたことより、糖毒性、脂肪毒性、炎症性サイトカインなどもβ細胞の機能障害に関係していると考えられています。このようにいままで、糖毒性や脂肪毒性といわれていたものがインスリンシグナル、オートファジー不全、酸化ストレス、小胞体ストレス、β細胞の脱分化などの面から分子生物学的に解明されつつあります。糖尿病の治療はインスリン補充やインスリン抵抗性改善などの従来の治療から、インクレチン関連薬といったβ細胞の保護を標的とした治療も進みつつあります。


    参考文献:共著論文はリンクあり
    1) Meier JJ, Butler AE, Saisho Y et al. (2008) Beta-cell replication is the primary mechanism subserving the postnatal expansion of beta-cell mass in humans. Diabetes57:1584-94
    2) Kulkarni RN, Bruning JC, Winnay JN et al(1999) Tissue-specific knockout of the insulin receptor in pancreatic beta cells creates an insulin secretory defect similar to that in type 2 diabetes. Cell 96:329-339
    3) Kulkarni RN, Holzenberger M, Shih DQ et al(2002) beta-cell-specific deletion of the Igf1 receptor leads to hyperinsulinemia and glucose intolerance but does not alter beta-cell mass. Nat Genet. 31: 111-115
    4) Ueki K, Okada T, Hu J et al(2006) Total insulin and IGF-I resistance in pancreatic beta cells causes overt diabetes. Nat Genet 38:583-588
    5)Kubota N, Terauchi Y, Tobe K et al(2004) Insulin receptor substrate 2 plays a crucial role in beta cells and the hypothalamus. J Clin Invest. 114:917-927
    6) Nakae J, Biggs WH 3rd, Kitamura T et al. Regulation of insulin action and pancreatic beta-cell function by mutated alleles of the gene encoding forkhead transcription factor Foxo1. Nat Genet. 32: 245-253, 2002
    7) Kaneko K, Ueki K, Takahashi N et al(2010) Class IA phosphatidylinositol 3-kinase in pancreatic β cells controls insulin secretion by multiple mechanisms. Cell Metab.12:619-632
    8) Yi P1, Park JS, Melton DA(2013) Betatrophin: a hormone that controls pancreatic β cell proliferation. Cell.153:747-758
    9) Shigihara N, Fukunaka A, Hara A et al (2014)Human IAPP?induced pancreatic β cell toxicity and its regulation by autophagy. J Clin Invest.124: 3634?3644
    10) Guo S, Dai C, Guo M et al (2013) Inactivation of specific β cell transcription factors in type 2 diabetes. J Clin Invest. 123:3305-3316
    11) Fonseca SG, Fukuma M, Lipson KL et al(2005) WFS1 is a novel component of the unfolded protein response and maintains homeostasis of the endoplasmic reticulum in pancreatic beta-cells. J Biol Chem. 280:39609-39615



    Laboratory

    東京大学医学部附属病院に併設する内科研究棟、301研究室を始め、複数の実験室に最新の機器を備えております。 国立国際医療センター 糖尿病センターとの共同研究も推進しており、毎月ミーティングを開催するなど人的交流も行っております。

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    主な研究費は当リンクに公開されております。


    There are still a lot to be done to conquer diabetes


    Members

    特任教授 植木浩二郎

    Kohjiro Ueki
    1987年東京大学医学部卒。東京大学医学部附属病院、旧国立病院医療センター等の研修を経て東京大学医学第三内科で糖尿病の診療と研究に従事。1997年から2003年までハーバード大学ジョスリン糖尿病センターで糖尿病におけるインスリン抵抗性やインスリン分泌不全の分子メカニズムの研究に携わる。帰国後は東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科准教授を経て、2014年より同分子糖尿病科学講座特任教授、国立国際医療研究センター糖尿病研究センター長を兼任。
    特任助教 小林正稔
    特任研究員 寺井愛

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    糖尿病は食事療法や運動療法、薬物療法などを行っても合併症を抱えることがあります。当研究室では、糖尿病の病態解明や治療につながる研究を目指しています。研究活動に参加したい大学院生、学生、研究者、医師はいつでもご相談下さい。 2014年忘年会より

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